はじまりは小さな過ち―ダルデンヌ兄弟が描く心理サスペンス

午後8時TOP1

診療時間をとっくに過ぎた午後8時に鳴ったドアベルに若き女医ジェニーは応じなかった。その翌日、診療所近くで身元不明の少女の遺体が見つかる。それは診療所のモニターに収められた少女だった。少女は誰なのか? 何故死んでしまったのか? ドアベルを押して何を伝えようとしていたのか?あふれかえる疑問の中、ジェニーは亡くなる直前の少女の足取りを探るうちに危険に巻き込まれていく。彼女の名を知ろうと、必死で少女のかけらを集めるジェニーが見つけ出す意外な死の真相とは──。

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この作品は、偶然の連鎖から引き起こされた一人の身元不明の少女の死の背景を探る女性医師ジェニーとその事件に関わった人々の葛藤を描いた作品だ。作品の伏線となっているのは、医師という仕事を選んだ人間の葛藤である。
女性が医師として仕事を継続するには男性より多くの関門を通過しなくてはいけないがジェニーはその最初の関門に遭遇している。依然として医師の世界は、男性社会である。その中で患者だけでなく、同僚の男性医師からも甘く見られず仕事をするには、男性以上に仕事をすることが必要であり、「女性だから感情的」という風評に負けないためにも自己の感情を抑え冷静に行動することが不可欠であり、自分の感情を抑えることで武装するのである。
自分も患者にもっと共感したいという思いが、患者に感情移入する研修医ジュリアンへの嫉妬といらだちとなって彼に厳しい言葉をかけることになる。診療時間を過ぎて鳴ったドアのチャイムを無視したのもジュリアンに対する医師としての嫉妬でもあるのだ。男性であるジュリアンに立場が上であることも示したかった彼女は、自分自身本当はドアを開けたかったにも関わらず反対の行動をとる。ドアは彼女の心の象徴である。ドアを開けることは病んでいるであろう来訪者への共感であり、閉ざされたドアは本心の抑圧を示している。
しかしこの些細に見える行動が少女の死につながっていく。少女の死によってジェニーは真相を究明する行動を開始するのだが、それが、ジェニーにとり、どんな医師を目指すか自分の今後の生き方を探す旅になるのである。

海原純子(心療内科医/日本医科大学特任教授)  コメントフライヤーより

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午後8 ロビー