7/11(金)公開『顔を捨てた男』
理想と現実が反転する世にも奇妙な不条理劇
A24驚異の異色作!
不条理かつ非常に厄介な真理を突いた、時代性に囚われない寓話である。 主人公のエドワードを単なる「無いものねだり」と一蹴するのは簡単だ。 だがどうしても、幾度となく擦られたであろう「大事なのは中身」という軽薄なフレーズが、ひたすら重たく足を絡め取る。なんだか「で、お前はどう?」と問われている気がして、今、答えを考えている。…いったん持ち帰ります。
コンビーフ太郎(グラフィックデザイナー)
『容姿か、中身か』この普遍的なテーマを突きつけられながら、「それでも人生は続く」ことへの絶望と興奮の狭間にあるであろう温もりある光は、自ら見出さなければいけないのだと胸ぐらを掴まれた。
人間は容赦ない。顔を捨てても、決して心は捨てられない。
誰かと感想を語り合うでなく、とことん自分と向き合わさせる力のある映画だった。
根本宗子(劇作家・演出家)
デヴィッド・リンチ作品を観ていて感じる、
不条理劇特有の「一体自分は今、何を見させられてるんだろう」と混乱する豊かな時間。
映画館でしか味わえないものが、この映画にはある。
川村元気(映画監督・映画プロデューサー・小説家)
人間の欲求という感情について、あらゆる角度からこれほど考察され尽くした映画に出会ったことがなかった。自分自身のアイデンティティを迷子にさせられながら、なぜか登場人物たちの豊かな言動に魅了されるという不思議。クラシカルな映像と音楽に対して、前衛的な価値観を描くミスマッチさが、逆に物語を強固にしている。これはもう、何度でも味わい、果てなく知るべき映画だ。
呉美保(映画監督)
慈悲や哀れみ、あるいは好奇や嫌悪。
人それぞれが弱者に抱く感情は、本物なのか嘘なのか…、自身でもよくわからない。
しかしこの映画は、その感情の真偽や善悪ではなく、いかに型にはまった“物語”であるかを我々に突きつける。
大島依提亜(グラフィックデザイナー)
『サブスタンス』の次はこれを観て欲しい。“ルッキズムとアイデンティティ”の周りには多様な問題が渦巻いている。自己肯定感と他者評価、当事者性と演技、倫理と暴力……これらが皮肉な反転や意外な衝突を繰り返す。
『顔を捨てた男』は答えの出ない哲学の重みを手放さずにドラマ化した傑作だ。撮影も音楽も素晴らしく、昭和の大映映画などを連想させる雰囲気の中に最尖鋭のテーマが装填されている。
森直人(映画評論家)
古本屋でふと手に取った小説が、時代を先取りしていた――。そんな錯覚を呼び起こさせるレトロな世界観×いまの価値観。言語化は憚られるが確かに在る暗い美意識を鮮烈に炙り出す。果敢にして普遍。A24イズムが一本に凝縮された稀代の傑作。
SYO(物書き)