2/7(土)公開 『汚れた血』『ボーイ・ミーツ・ガール』

『ポンヌフの恋人』から始まる、

レオス・カラックスのアレックス三部作へ

 

『汚れた血』『ボーイ・ミーツ・ガール』そして『ポーラX』

 

 

 

 

 

 

どこまでも加速する一方通行の愛

極限まで美に徹した、鮮烈なフィルム・ノワール

 

愛のないセックスで感染する奇妙な病気「STBO」が蔓延する近未来のパリ。父の不可解な死の後、アレックスは父の友人マルクからSTBOウィルスを盗む犯罪に誘われるが、彼はマルクの愛人アンナに魅かれてゆく…。結ばれない男女の三角関係を、凝りに凝った映像でスピーディかつ衝撃的に描く、鮮烈な色彩のフィルム・ノワール。

 

デヴィッド・ボウイの「Modern Love」をバックにドニ・ラヴァンが走り続ける長回しや、ラストのジュリエット・ビノシュの疾走など、映画史に残る数々の名シーンでも知られている。レオス・カラックスのなかでもっとも美に徹した本作は、その色彩感覚や映像センスで熱狂的ファンを生み、影響を受けた映画人やミュージシャンも少なくない。

 

 

 

 

 

 

夢の断片のように美しいモノクロームの映像
夜のパリをさまようアレックスの恋

 

作家セリーヌの「なしくずしの死」をゆっくりと読む子供のような声にいざなわれ、夜のパリを彷徨うふたつの孤独な魂の出会いを描く『ボーイ・ミーツ・ガール』。親友に恋人をとられたアレックスは、恋人とケンカしたミレーユと偶然出会う。一目惚れ、そしてやがてくる思わぬ悲劇が、コップの水が静かに溢れ出すような緊張感で語られる。

 

フロントガラスが割れた車の母子。セーヌ川の河岸での‟初めての殺人未遂‟。デヴィッド・ボウイを聞きながら夜の街をうつろうアレックス。ゴダールの『気狂いピエロ』を思い出させる奇妙なパーティー。出会いの瞬間に割れるグラス。アレックスとミレーユの夜更けの語らい―。記憶か夢の断片のような美しいシーンの連鎖と、アレックスの詩的で独白的な語りによって、夜の闘のなかをたゆたうように物語は進んでゆく。

 

 

 

 

 

 

華麗な映像と激越なドラマで多くのファンの心を揺さぶった『ポンヌフの恋人』(91年)から8年、レオス・カラックスは『ポーラX』で復活する。カラックスならではの濃密な映画世界がふたたびスクリーンに炸裂した。

 

19世紀半ばのアメリカ小説、ハーマン・メルヴィルの「ピエール」(1852)の映画化で、タイトルの『ポーラX』は小説の仏題”Pierre ou les ambiguité” (ピエール、あるいは曖昧なるもの)の頭文字Polaに謎のXをつけたもの。原作「ピエール」は「白鯨」の翌年にメルヴィルが熱狂のうちに書き上げ、その内容から「メルヴィル発狂す」とまで報じられた背徳的で虚無的な長編小説であり、カラックスは18歳の頃に読み「自分のために書かれたかのような奇妙な感覚」を抱いたという。

 

 

それを泥沼のユーゴ内戦など20世紀末の文脈に置き直し、アクチュアルな話として、また自身の物語として読み直そうとした。主人公ピエールと姉かもしれぬイザベルは、混沌の中で血にまみれた奔流に溺れる双子の孤児のようだ。二人の絶望の深み、そしてその果てにあるあらゆる愛憎としがらみからの超越を、壮絶なロマンティシズムの物語として描いた『ポーラX』は、20世紀の映画シーンの終わりにカラックスが発した魂のメッセージだった。