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室蘭の力結集 ご当地映画 | Uターン・坪川監督 市民が応援団

2017年4月24日 朝日新聞

室蘭の力結集 ご当地映画

Uターン・坪川監督 市民が応援団

 

「モルエラニの霧の中」来秋にも | 豊かな自然・景観に心動く

 

_室蘭市でご当地映画作りが進んでいる。市内に住む映画監督の坪川拓史さん(45)がつくる「モルエラニの霧の 中」だ。市民が応援団となって資金を集め、撮影を手伝い、出演もする。オムニバス全7話のうち2時間余りの 第1部4話が完成。近く第2部の撮影が始まり、来年秋ごろの公開を目指している。

_坪川さんは21年暮らした東京から生まれ故郷の室蘭に6年前に移住し、専門学校の講師になった。映画は独学。2005年のトリノ映画祭でグランプリと観客賞を受けた「美式天然」は完成まで9年。福島県の廃校を舞台にした「ハーメルン」は東日本大震災などがあって5年かかった。美しい映像が持ち味で、海外でも評価が高い。

_「なにもない街だよ」。室蘭でこんな声をよく聞いたが、歩いてみると違った。豊かな自然と景観、古びて味わいのある建物や街並みに心が動き、故郷を舞台にした映画の脚本を書き始め、14年春から映画の製作が動き出した。モルエラニはアイヌ語の「小さな下り坂」の意味で、室蘭の語源とされる。

 

資金集め出演も

 

_映画作りは市民らによるNPO法人室蘭映面製作応援団が担う。応援団は約60人。炊きだし、交通整理、機材運搬、衣装や小道具の準備、俳優の送迎など、撮影現場の手伝いもする。事務局長の東野郁夫さん(61)は俳優の送迎を担当した。「新千歳空港までの往復に名優と接することが出来た。映画づくりは感動や充実感がある」と言う。

_多額の費用がかかる映画製作では企業などスポンサーがつくのが通例。過去にスポンサーの要求で主演や内容の変更を求められた経験がある坪川さんにとって、この「応援団方式」はこだわりでもある。

_ただ、資金調達は大変だ。 超低予算だが、今年の撮影分の資金的なめどがまだ立っていない。寄付は個人1口2千円、企業同5千円。これまで寄付をした約700人と約200社に、再び支援を依頼している。

_映画には、河合龍之介はじめ大塚寧々、香川京子、大杉連らの各俳優が出演するが、市民キャストも重要な役を務める。主婦や商店主、中学生ら。みな映画は初めて。第1部に出演したベテラン俳優の坂本長利さんは「その土地に生きてきた人のたたずまいの説得力にはかなわない」と舌を巻いたという。

_衣料品店の3代目、村田博さん(60)は「室蘭の将来を左右する映画になってほしい」と応援団に加わり、出演もした。店のある母恋地区は日本製鋼所の工場があり、昭和40年代には通勤通学の人たちで 商店街がにぎわった。しかし、人口は半減、5年前に店を閉めた。そんな時、監督の坪川さんと出会った。「まだ8万6千人いる。その人たちの力で世界に発信できる映画を作ればインバウンドだって増える。やらないと何も起こらない」と期待を込める。2年前には店を再開した。第1部4話の舞台は、築102年の旧三菱合資会社室蘭出張所や近く改築される市青少年科学館、同館の中庭に展示されている蒸気機関車、牧草地にある老木の一本桜。そこで半分実話の物語が展開される。「古ければそれだけ人の思いもあつくなる。だから機械や物にも魂のようなものが宿ると信じている」と坪川さん。「記憶の奥で忘れかけた自分だけの思いを、ふと思い出すためのスイッチになるような映画を作りたい」

(三上修)