TOP >> WEBコンテンツ >> 全国映画よもやま話 >> ゆうばり国際映画祭



全国映画よもやま話

記者の視点 ゆうばり国際映画祭 

2018年4月1日 北海道新聞朝刊

記者の視点 夕張支局 藤田香織里

ゆうばり国際映画祭

 

映画のまち夕張最大のイベント「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」が3月19日まで5日間、夕張市内の「合宿の宿ひまわり」をメイン会場に行われた。28回目の今回初めて、映画祭のPRと集客増を狙い、札幌市内にサテライト会場を開設。約300人が訪れたが、夕張会場と合わせた来場者は約1万2500人と、前年とほぼ同数にとどまった。実行委員会にはまちの再生のためにも、より多くの人が来場する工夫を求めたい。

ゆうばり映画祭は「石炭から観光へ」を掲げる夕張市主導で1990年に開始

2006年の市の財政破綻で休止されたが、08年に市民らの手で再開され、企業の協賛金などで運営されている。

市民は、夕張と映画のつながりの象徴「黄色のハンカチ」を手に「お帰りなさい」と俳優や来場者を迎える。人口約8300人の山あいのまちは独特の熱気に包まれる。小規模のものを含めると国内で100以上映画祭がある中、市民の温かなもてなしと、若手の人材発掘の実績で知られる。新人時代に参加したクエンティン・タランティーノ監督は、ヒット作「キル・ビル1」(03年)で、女優の栗山千明さん演じる登場人物を「ゴーゴーユーバリ」と名付けた。

 「製作現場の合言葉は、『目指すは、ゆうばり』」「聞いていた通りの温かな映画祭」―。今年の会場でも、若手監督らが口々に熱い思いを語った。サテライトでは過去の出品作などを上映。今春、大学に進学して映画製作を学ぶ観客の男性は「ゆうばりで作品を上映するのが夢」と話していた。映画祭を札幌市民らにPRする効果はあったろう。

 映画祭は四半世紀の歴史を重ねて課題も目立つ。集客の柱となる招待作品部門は劇場公開前の話題作を上映するが、5作品と前年より3作品減った。「海外からの観光客の宿泊先確保」(実行委)を優先して従来の2月より遅い開催となったため、映画会社が宣伝に力を入れる時期から外れ、誘致が難しくなった。

 昨年まで複数あった上映会場を、中心部から約2キロ離れた山の上の1ヵ所に集約した影響もある。来場者が会場内にとどまる傾向が強まった。

 「会場間を巡回バスで行き来しなくてすむ」と評価する声も聞かれた。だが、飲食店で居合わせた俳優や監督、市民と手料理をつまみながらの映画談義は、小さなまちの催しこその楽しみ。残念に思う。市民ボランティアの高齢化、集落が点在する市内で、映画祭効果が、市内の一部に集中する点も否めない。

 「逆境に立ち向かう姿にドラマがある」。映画祭名誉大会長の鈴木直道市長は、映画祭と夕張のまちとを重ねて話す。東京五輪・パラリンピックのある20年、映画祭は30回目の節目を迎える。海外からの来場者も見据え、実行委の深津修一プロデューサーは「開催時期や会場、運営体制など全てを検討し直す」と説明する。夏場の開催や、中心部でも開催しやすいテントなどを使う屋外上映、東京でのサテライト開設など、幅広い案を検討してほしい。

 映画祭の運営に詳しい県立広島大の矢沢利弘教授(経営学)は「映画人の間でゆうばりブランドが確立されていることは、再生途上のまちの大きな強みだ」とした上で「運営を担う人材を育てつつ、長く続ける方策を探るべきだ」と指摘する。市民も巻き込み、夕張ならではの映画祭のあり方を議論し、温かなまちの魅力をより広く発信する場としてほしい。