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全国映画よもやま話

平田オリザさん講演会「新しい広場つくる」

2016年12月7日 北海道新聞 夕刊

文化政策を考える機会に

札幌市民交流プラザ 18年開館に向け議論 / 求められる役割とは 平田オリザさん講演

2018年10月に開館予定の文化関連複合施設「札幌市民交流プラザ」のあり方を考える講演会とシンポジウムが3日、札幌・道立近代美術館で開かれた。市内の文化関係者でつくるACF札幌芸術・文化フォーラムと、市民交流プラザ開設準備室の共催。第1部は劇作家・演出家の平田オリザさんが「新しい広場をつくる〜市民芸術概論〜」と題して、交流プラザに求める役割や地域にもたらす可能性について解説した。平田さんの講演の概要を紹介する。

(中村公美)

 

本物に触れる場 もっと子供に

社会における芸術の役割は①人を感動させる「芸術そのもの」としての役割②コミュニティーを形成し維持する社会包摂③教育や観光、医療など直接、社会に役に立つーの三つに大別できます。文化政策は自分たちの時代に受け継いだものを少しでも発展させ、引き継ぐことが重要。つまり、未来への投資という面が強い。札幌ほどの規模の都市が、創作活動に取り組まないのは人類に対して責任を果たしていないのでは。

また、教育の面でも文化政策は重要な意味を持ちます。2020年度には大学入試改革が控えています。今後は知識よりも潜在能力や主体性、多様性、表現力などを問う内容に変わるでしょう。そのとき重要になるのは、体にしみついたセンスや美的感覚などの「身体的文化資本」です。それを磨くためには、なるべく早いうちから本物に触れるしかない。舞台芸術や音楽などの文化に触れる機会は、地方より東京の方が圧倒的に多い。だからこそ、地方ほど子ども一人一人に文化資本を蓄積する教育に変革する必要があるのです。

観光の面でも文化の役割は大きい。札幌は観光客が多く訪れているが、観光する場所は実は少ない。そのとき切り札になるのが「ナイト・カルチャー」です。たとえばオーストリア・ウィーンの国立歌劇場は毎晩のように違う演目のオペラを上演しています。すると、それを目当てに何日も観光客が滞在し、経済効果は膨大なものになる。こうした文化を育てれば、札幌は中国やロシアも含めた、観光のハブ(中核)になれる可能性があると思います。

宮沢賢治は「農民芸術概論網要」で農民が文化芸術に親しみ、自立した存在にならないと、東京に収奪される状況は変わらないと主張しました。北海道はどういう道をたどるべきなのか。新しい文化施設ができる機会に、みなさんでよく考えてほしいのです。

 

<シンポジウム>「地域独自の発信を」「芸術監督決めて」

第2部のシンポジウムでは「札幌市民交流プラザを市民が活用していくために」と題し、平田オリザさん、宏瀬賢二さん(北海道ダンスプロジェクト会長)、漆崇博(AISプランニング代表)、伊藤久幸さん(市民交流プラザ開設準備室・舞台技術担当部長)、山田修市さん(同・文化芸術交流センター事業課長)が議論を交わした。コーディネーターは札幌の映画館シアターキノの中島洋代表が務めた。

同プラザの大規模ホール札幌文化芸術劇場について伊藤さんは「劇場法に明記されたように専門的人材を配置することで、技術者を連れてこなくても公演が可能な劇場にしたい」と強調。山田さんは札幌文化芸術交流センターについて「文化や芸術の中継点となる『アートステーション』の役割を目指したい」と話した。

利用する立場から宏瀬さんは「ホールは市民が行きたいと思える場所であってほしい。北海道独自の文化の発信ができれば」と期待を寄せた。小学校と芸術家をつなぐなど多様な文化活動を展開する漆さんは「交流センターには、札幌市内の取り組み全体が盛り上がるような機能を担ってほしい」と提案した。
これらの議論を受け、平田さんは「札幌市ほどの規模であれば市立のダンスカンパニーや劇団くらい持つべきだ。札幌発の作品を発表するためには、力のある人材が必要。早く“顔”となる芸術監督を決めるべきだ」と意見を述べた。

 

■札幌市民交流プラザ
札幌市が中央区北1西1に設置する文化関連複合施設。多面舞台をもつ2300席の大規模ホール「札幌文化芸術劇場」、文化を担う人材育成や調査研究の拠点となる「札幌文化芸術交流センター」、「札幌市図書・情報館」で構成される。