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全国映画よもやま話

秀作連発 東海テレビ  ドキュメンタリーの地平を耕す

2017年2月15日 北海道新聞 夕刊

秀作連発 東海テレビ ドキュメンタリーの地平を耕す

ニュータウンの老夫婦 戸塚ヨット 暴力団 「古里意識、人間描く」

 

新作「人生フルーツ」札幌、苫小牧で上映

_数々のす優れたドキュメンタリー番組を生み出している東海テレビ(名古屋市)。最近は劇場版も製作し、地方テレビ局が自局のドキュメンタリーを劇場公開する動きをけん引している。

_最新作「人生フルーツ」(札幌・シアターキノで上映中。苫小牧・シネマ・トーラスでも3月に上映予定)の舞台は、愛媛県春日井市のニュータウンの一角にある一軒家。住人の90歳の建築家、津端修一さん、87歳の英子(ひでこ)さん夫妻が主人公だ。2人は畑を耕し、四季折々の野菜と果物の恵みと共に暮らしている。

_1960年代、修一さんはこのニュータウン設計に携わり、挫折した。時代は修一さんが求めた自然との共生よりも経済性を優先した。それから半世紀。ゆっくりと時を重ねてきた夫妻の来し方と暮らしが淡々と映し出される。

_「生きることは素晴らしいことだと伝えたかった」と伏原健之(ふしはらけんし)監督。報道番組を手掛ける中で「超高齢化で先が不安だというニュースが世の中にあふれ、歳を取ることがネガティブに捉えられていると感じる。そうではない。『希望』がテーマでした」。

_阿武野(あぶの)勝彦プロデューサーは「豊かに生きることを実践してみせた古里の偉人をきちんと記録できたことは一番の果実だった」と話す。これまでに、訓練生を死亡させた戸塚ヨットスクールの今を描く「平成ジレンマ」(斎藤潤一監督)など、過去に地域であった出来事を今の時代に問い直す作品も送り出している。「そこにあるから地元局ではない。古里を強く意識しないと“地元局”にはなれない」

_劇場版は「人生フルーツ」で10作目。中でも、暴力団に密着取材した「ヤクザと憲法」(圡方(ひじかた)宏史監督)は話題を集めた。「キワモノを作ると言われるが、それは違う。どれも根本は同じ。人間を描き、世の中をもっと自由にしたいという気持ちの表れがある」

_伏原監督も「どの企画もアプローチの仕方は変わらない。粘って、溶け込んで、相手と信頼関係を築くことです」。

_劇場版の仕掛け人である阿武野プロデューサーだが「初めから映画として作る企画はない」ときっぱり。映画化は、視聴率で苦戦し全国ネットで放送されないドキュメンタリー番組の状況に、危機感を抱いての策だ。「ドキュメンタリーを見る文化が無くなってしまった世の中で、作り手としては、たくさん良い作品を出して痩せた土壌を耕すしかない。何十年か後に、ゴールデン帯で放送される番組を見てもらうのが最終目標です」