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全国映画よもやま話

国内屈指の老舗映画館 大黒座の100年 下

2017年5月4日 北海道新聞 朝刊

 

若者と連携 広がる活動

 

_映画館「大黒座(だいこくざ)」があるのは、かつて飲食店が軒を連ねた日高管内浦河町の中心街「浜町通り」。今はシャッター街だが、6月3、4の2日間、野外演奏や美術展など多彩なイベントによる町民参加型芸術祭「うらフェス」の舞台に変わる。

 

芸術祭に協力

_そのフェス実行委から昨年末、大黒座に打診があった。「芸術祭に映画は欠かせない。(映画会社の配給ではない)自主上映に協力してもらえないか」

_アニメから社会派、ドキ ュメンタリー…。作品の有名無名に関係なく幅広い映画を上映してきた大黒座へのたっての願いだった。

_4代目館主三上雅弘さん(65)は「来客を望める自主上映は上映はありがたい」と快諾。複合映画施設(シネコン) で未上映の「あした家族」など3作品が決まった。実行委の若者たちとの協力は、大黒座の活動の幅を広げるきっかけとなった。

_シネマの灯を消すまいと、大黒座にゆかりのある映画関係者らも有形無形のエールを送り続けている。浦河出身で日本アカデミー賞の優秀監督賞に輝いた「海難1890」の田中光敏監督(58)は、幼い時に大黒座で映画を見て、スクリーンの奥にある撮影風景に憧れた。長年の夢だった北海道を舞台にした映画作りを進める傍ら大阪芸術大で、映画人を目指す若手を教える。田中監督は「人への思いやりを学ぶ『映画』という文化を1世紀続けてきた大黒座の素晴らしさを次代に伝えるのが僕の役目」と自分に言い聞かせる。

_大黒座を大切な文化施設と位置づけるのは、長年支援に携わってきた町の浅野浩嗣教育長(60)。「映画に関連するさまざまな事業を大黒座にお願いしていきたい」と、行政として後押ししていくつもりだ。

 

私たちが残す

_大黒座の未来はどうなるのだろう。雅弘さんに聞いてみた。すると意外な言葉が返ってきた。「映画業界 はさらに厳しくなり、いつまで続けられるか分からない。4人の子どもに素直に継いでほしいと言えない」

_だが、子どもたちの考えは違った。次女あいこさん(23)は札幌の映画館「シアターキノ」でボランティアをする。道教育大岩見沢校大学院でアニメ制作も学んでおり「大黒座を必要としてくれる人が一人でもいる限り続けていきたい。私たち姉弟の気持ちです。誰かが引き継ぎ、残します」。

_思いは、大黒座の受け付けの壁に掲げられていた額縁にあった。

_「映画を見ない人生よりも見る人生の方が豊かです」。あいこさんの祖父政義さんが残した言葉だ。1世紀にわたり、映画という窓を通して、小さな町の人々に、豊かな世界を見せてきた映画館「大黒座」。 映画の灯は若者たちに引き継がれる。エンドロールはまだ、流れない。