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全国映画よもやま話

あす開幕!札幌国際短編映画祭で上映の全編アイヌ語アニメ作品。

2015年10月6日(火) 北海道新聞 朝刊

 

全編アイヌ語 アニメ作品

あす開幕 札幌国際短編映画祭で上映

 

アイヌ民族の原作による全編アイヌ語で、日本語・英語の字幕がついたアニメーション映画が札幌国際短編映画祭(7~12日)の上映作品に選ばれた。札幌在住の結城幸司さん(51)が原作・原画を担った「七五郎沢の狐」(13分45秒)。創作だが、キツネの体験を通して環境保護を訴える現代版カムイ・ユーカラ(神謡)とも言える内容だ。欧州や台湾の映画祭でも上映が決まっており、日本に複数の文化が併存している事実を国内外に訴えかける(編集委員 小坂洋右)

北米やオーストラリアでは、先住民族が自ら脚本を書いたり、出演・制作したりした映画が既に何本も作られている。アイヌ民族はこれまで芸能や工芸、服飾・デザインの分野で盛んに発信してきたが、映画を自ら手がけた事例はほとんどなかった。

物語は、先祖代々暮らしてきた沢が廃棄物で汚染されて生き物が消え、子ギツネのために餌探しの遠出を余儀なくされる母ギツネが主人公。都会にさまよい出ると、人間の残飯をあさって肥え太ったネズミが「やせ哀えたその姿で、捕まえられるものなら捕まえてみるがいい。やがておまえたちは滅びる」とやゆする。太りすぎのネズミは捕まえることができたものの、都会に順応できないキツネは沢に戻る。しかし、そこにも居場所がないことを悟り、ついに郷里を捨てる決意をする―。

物語の着想を結城さんが得たのは2005年。廃棄物がずさんに処分されているとして、健康被害の懸念が住民から提起された函館市東山町の七五郎沢廃棄物最終処分場周辺を訪ね、悪臭など環境悪化の現実に衝撃を受けた。その後、住民運動で改善したが、「森も沢もない大地に命は続かない」と訴える物語を何枚かの版画にして子どもらに語り聞かせた。それが横浜市在住のアニメーション作家・脚本家、すぎはらちゅんさん(42)の目に留まり、「ぜひ映画に」と09年に制作委員会ができた。

補助金を受けず、制作資金約60万円は約150の個人・団体からのカンパで捻出。制作はほとんどボランティアで行われた。東京都内のアイヌ語教室「銀の滴講読会」の講師を勤める成田英敏さんがアイヌ語訳・監修を担当。音楽をアイヌ民族のnitankurさんがつけ、声優にもアイヌ民族が参加した。すぎはらさんの監督・脚本・アニメーションで昨年、完成した。

3月に都内で行われた東京アニメワールドフェスティバル2015でコンペティション部門の観客賞を受賞。札幌国際短編映画祭(実行委員会、札幌市主催)では国内制作応募作243点から運営委員らの評価を得て「オフィシャル・セレクション・日本作品」18作品に選ばれた。同市中央区南2西5の札幌プラザ2.5で7日午後4時、9午後7時、10日正午、12日午後1時からの計4部の中で上映される。

 

言葉の力取り戻す。原作・原画アイヌ民族の結城さん

アイヌ民族の伝統生活は狩猟だったので、自然とのかかわりは日常。自然保護を意識するまでもなく自然と融合した暮らしだった。今は高度な医療もあって長生きできるようになったが、一方で、廃棄物がどこで処分されているかも分からなくなり、自然を破壊して生活そのものが崩れていく側面もある。

物語の中で、腹をすかしながら伝統的な生き方にこだわるキツネも、人間のそばに住んでたくましく生きるネズミやカラスも、今を生きる私たち、現代アイヌの姿かもしれない。どちらがいいという答えは出せない。ただ、キツネが土を掘っても人間たちがゴミを埋めていて、その地には草も生えないんだというシーンには、そういう社会に未来はないというメッセージを込めた。

アイヌ民族は言葉の民。言葉の本当の力を取り戻すには、かつてのように物語を語り合う精神世界を復活させることが大切になってくる。そう考えて、ユーカラ(英雄叙事詩)の精神を受け継いで、現代の創作物語を作ってきた。アイヌがアートの世界で力をつけていくというのは正しいやり方で、映像は文化発信のツールになると考えている。若いアイヌにも物語や神話を作る力があるはずで、目覚めて想像力を取り戻してほしい。